ほろ苦い甘さを感じながら、俯きがちな気持ちで読み進めた名著
30歳を超えた今の僕には登場人物が背負っているものがリアルすぎて少し堪えた。
心がズンと重くなる、動き方は様々だけど、この気持ちの揺らぎを味わうのが読書の醍醐味。
読み終わった今、単純に楽しかったとは言えないけれど、人生の糧になったと思う本でした。
30後半から40歳くらいの生き方が凝り固まってきている男の短編7作品。
現状に満足できずにいて、はっきりしない足りない何かを渇望している。
他人事だと思えない、読み進めながら自分の内面と葛藤が続く。
こんな鈍い父親、旦那でいたくないと、ひどいヤツだと一蹴できるほど、
僕は疎くはないし自信家でもなかった。
出てくる登場人物は大人で、一般的には頑張って生きている方に入る人たちだ。
しっかり仕事をこなして、家族のことも自分なりに大事にしようと思っている。
ドロドロの不倫もしていないし、DVもないし、外から見たら良い人たち。
ただ、人生に満足はできていない。自分と重ねてしまう人は多いはず。
「ビタミンF」のベルピピ的に良かったポイント
無意識だから鈍くいれるのに、すべて分かったうえで書き上げる作家さんはやはりすごい。
描写が上手い分、共感できてしまうところはほろ苦い。
そんな上手な文章で僕のダメな部分を内面を暴かないでくれ。
これだけイライラしたり、反発したくなるのは僕自身に似通った部分があるからで、
無意識にあと5歳年を取ったら、登場人物の中の誰かになっていそうだなと恐怖を感じた。
ネガティブな表現が多くて誤解してほしくないけど、お勧めしたい本。
読んでる途中は編こむけど7編すべてに最後は希望をもたせてくれる。
自分を顧みて苦しみつつ、前向きになれる反面教師的な本だった。
人生の別ルートを妄想してしまう浅ましさ 身勝手さ 残酷さ
印象的だったのは5章の「なぎさホテルにて」
主人公の達也はひどいヤツだと思うけど、共感してしまうところがあって辛い。
人生のBルート・Cルートだったら今頃どんな生活をしていたかなと、
自分の人生の別の世界線をふとした拍子に考えてしまう。
子供の顔を見て自己嫌悪に陥った事もたびたびある。
今の生活と過去のノストラジーの中にいる昔の女性との妄想を比べることがフェアじゃない。
しかも他ルートがあったのは自分だけではなくて相手だって同じ。
僕を選んでくれたことに、今一緒にいてくれることにもっと感謝しないといけない。
ここまで分かっていてもふと蘇る過去の記憶。
僕はあと何回これをくりかえすのだろう・・・って思う内容が詰まっている章でした。
この気持ちわかる人いるのかな?
5章 なぎさホテルにて あらすじ
なぎさホテルにはユニークなサービスがあった。
「未来ポスト」何年先でも設定した日にホテルに投かんした手紙を届けてくれる。
20歳の誕生日に書いた元カノの手紙が17年後の2000年に37歳になった達也に届く。
別れることを予想していた元カノの手紙には、「37歳の誕生日に今の家族とお互いに泊まりに行ってみない?」というメッセージが添えられていた。
達也と奥さんはここ半年くらいで急激に冷めていて(旦那の謎の人生に対する飢えによって)
お互い離婚も視野に入れている状況。
ホテルでは、受付でこっそり元カノの名前を使って誕生日ケーキでバレて奥さんを傷つけ、
小学生の子供が頑張って二人の仲を取り持とうとしていたりする。
それに気づいて申し訳ないという気持ちはあるが、歯止めが効かない。
そんな折、元カノから新たな手紙が部屋に届く。
「本当に来ちゃったの?」から始まる手紙は、達也の気持ちを汲んでいて、
達也の飢えた気持ちを少しづつ満たしていく。
感想・まとめ
奥様からすると自分は他の人生を捨てさせた男。確実に僕よりも選択肢はあったはず。
このことを胸に刻んで、罪悪感を忘れないで生きていこう。
ふとした拍子のノストラジーなんてなくなればいい。
今の幸せにもっと感謝して、家族を大事にしよう!
当たり前のとっても大事な事を思い出せた本でした!
以上です。ばいばい
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