川上未映子作『すべての真夜中の恋人たち』を読んだ感想

お勧めの本紹介
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川上未映子作『すべての真夜中の恋人たち』を読んだ感想をご紹介します。

繊細な人物描写が多々あり、出てくる人物像がすごくイメージしやすくて読みやすく、感情移入がとてもしやすかったです。300ページ超えの長編ですが読書をあまりしない人でも楽しく読めると思います。読書が好きな僕は、文章がステキで、文章に浸りながら読むことができました。
内容は34歳のレベチのコミュ力不足の冬子さんの恋愛小説です。相手は58歳のおじさん。デートは人がほぼいない喫茶店。どう考えても日の当たる明るい世界に住む人ではない人たちの恋愛です。今まで人と繋がってこなかった冬子さんの不器用で強烈な感情は心が大きく揺さぶられました。

ずっと一人で生きてきた冬子さんの不器用すぎる恋 以下ネタバレ含む

34歳でフリーで本の校閲をしている冬子さんと、どう考えても魅力的ではない疲れた58歳のおじさん三束(みつづか)さんの恋愛を描いた小説です。冬子さんは途方もないほどの内向的な性格で、恋愛なんて理解不能な状況でした。プライベートの楽しみは年に1回だけ誕生日の夜に一人で散歩することだけ。自分が三束さんのことを好きと認識するために、数か月かかり、外部を遮断し、仕事も減らし、まともな生活が送れなくなってしまいます。借りた本の感想をメールで送るのに、作成3日、見直し3日、お酒を飲んで勢いをつけてやっと送信するほどです。ピュアが過ぎてピュアと狂気が6:4くらいで入り混じった感じの行動をどんどんとっていきます。

三束さんへ自分の気持ちをゆっくりゆっくり自分の中で整理していき、三束さんへ自分の気持ちを尋常じゃないくらい勇気を出して少しづつ伝えていきます。三束さんとに恋することで、冬子さんは根本的な部分が変わっていきます。

今までの自分が主体的に何も選択してこなかったこと、それは自分が逃げてきただけだったことに気づき、今回の三束さんへのどうしようもない気持ちが、ほかの出来事と同じように薄れて行ってしまうことは嫌だと思い、気持ちを伝えることを決心します。(決心までに数か月かかり変な行動もしてますが 笑)

彼女の中で爆発している感情に自分頭の中の整理が追い付かない感じと、どうしていいか分からなくなって突拍子もない行動をしてしまう不器用さに切なくなりながら、どうにかこの恋が叶ってくれることを祈るような気持ちで読み進めていました。少女漫画とか普通の恋愛小説にはないメランコリックな気分になりました。

冬子さんを見ていて、恋愛は明るいキラキラした世界にいる人だけのものじゃないんだと、暗い中で生きてきた34歳と58歳の恋愛もすごく心が揺れ動いてパワーが必要で、意味があることなんだと思います。

重要人物の三束さんと聖について

この物語はキーになる人物が2人存在します。冬子さんが好きになる三束さん、あとは真逆の性格をした仕事仲間の聖という女性です。二人とも冬子さんに大きな影響を与えます。

三束さん 58歳

三束さんとは無料でいろいろな講座が受けられる新宿のコミュニティセンターで出会います。出会った場所も全然ロマンティックではないですが、出会い方もなかなかひどくて、冬子さんがお酒の力を借りて講座を予約しようとして気持ち悪くなって吐きかけの状態でトイレの入り口でぶつかったのがファーストコンタクトです。

喫茶店でのデートは財布を無くしてしまった彼女に1,000円貸して、冬子さんがそれを返すために会いに行くことから始まります。穏やかな人ですが、なんとなく幸が薄そうで、冬子さんと話す感じや服装などの描写でじわじわと、この人も日の当たらない側を生きてきた人間なんだなと、感じます。

最後の最後で幸薄そうな伏線が回収されて悲しい気持ちになりますが、しっかりと冬子さんと向き合って、この人なりに悩んでいたんだろうなと、不器用さに切なくなります。

仕事仲間の聖 34歳(同い年)

もう一人の重要人物は冬子さんの仕事のパートナーの聖です。大きな出版会社にいてフリーで校閲を仕事をしている冬子さんに仕事を依頼しています。フリーになれたのも、冬子さんの仕事が順調なのも聖の存在が大きいです。仕事ではお互いを信頼して良い関係を気づいています。(冬子さんは人づきあいはからきしですが、校閲の仕事のレベルは高いです。)

聖は物事を白黒つけてはっきり自分の意見を言えて、見た目もショートカットのキリっとした顔の美人です。冬子さんと三束さんとは違い、日の当たっている側の人生を謳歌しているタイプです。両極端な二人ですが聖も人間関係に問題を抱えています。器用に人づきあいをしているようですが、自分の本当の感情が良く分からなくなっていて、気に許せる存在はありません。

上手く社会で立ち回っていて、やりたいことではなくて、やるべき事とか効率性とかを優先していると僕も同じような気持ちになることがあります。本音がわからなくなってきて、立ち回り方だけどんどん上手になって、自分のことが良く分からなくなってしまう。重篤度は違いますが現代社会では聖みたいなタイプは結構多いような気がします。

自分自身を置いてきぼりにしている点では冬子さんよりも複雑に歪んでしまっている気もします。

ただ彼女は最後に冬子さんと本音をぶつけ合うことで、本物の友達になっていきます。

まとめ

今まで人と関わらない事で自分を保ってきた冬子さんが、三束さんや聖と関わっていくことで、傷つきながらも人と繋がっていく道を選んでいきます。すべてがハッピーエンドで終わるわけではないですが、人と関わることを選んだ冬子さんは孤独ではなくなります。温かい気持ちで読み終えました。

最初にも書きましたが、文章がきれいで、文章に浸りながら読むことができる、大好きな本になりました。ぜひ日の当たる人物だけの明るくて力強い恋愛小説に飽きた方に読んでみてほしいです。

すごく素敵な小説でした。以上です。

 

 

 

 

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