寺地はるな「大人は泣かないと思っていた」読んだ感想(ネタバレあり)

お勧めの本紹介
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本屋をぶらぶらしているときに「大人は泣かないと思っていた」というタイトル

に惹かれました。最近自分が泣いてびっくりした経験があったぼくは、

そうだよねと頷きながら手に取った本です。寺地はるなさんの作品は今回初読でした。

とても面白かったので僕が良かったと思ったところをご紹介します。

読み終わった時の気持ちと感想

 

30年の人生の中で自分に溜まっていた鬱憤を小説内の人物が代弁して吐き出してくれて、すごくすっきりとした気持ちで読み終わりました。ハッピーエンドだったのも良かった。

 

自分の中に子供時代からすりこまれた「こうあるべき」という姿に苦しんでいる人、又はその姿から外れた人生を歩んでいて罪悪感を抱えている人にお勧めです!

主人公 時田翼の魅力(この先ネタバレを含みます)

主人公は最近市に取り込まれた田舎の村に住んでいて、「こうあるべき」を村全体で共有しているような恐ろしい環境で暮らしています。しかも周囲の人たちは田舎の強烈なネットワークで村の常識から外れた人物がいないか、見張りあっているような状況です。(実際、僕の田舎もそうなので周囲の人の感じは共感できる方も多いと思います)
そんな中で時田翼は流されず、村の常識ではなく自然に自分の軸に従って生きています。恋愛関連には大変疎いですが、人の心には寄り添えてよく気付く優しい男です。
なよなよしているとか、男らしくないとか言われていますが、流されない強いさと不器用な頑固さを兼ね備えています。
「なんでそんなに良いヤツで不器用なんだ!」と魅力的な彼に感情移入しながら読み進めることになりました。
周囲の目を気にせずに自分の考え方を持ち、人に対して平等です。先のことを考えすぎててしまって素直に生きられない。優しくて親切ですが、かなり不器用で頑固なタイプの人間です。最終的に周囲の力もあって自分の中にあるしがらみから解放されていきます。

【1章】 大人は泣かないと持っていた(7~42P)

◆主人公 時田翼視点です

この先に恋愛関係になるゆず泥棒の小柳レモンと出会います。彼女は10歳年下で隣の家のおばあさんの孫でした。

レモンの母と祖母は絶縁状態。足を骨折したと連絡があっても動かない母の代わりに祖母の家に通っています。祖母が唯一レモンに伝えた自分の過去の話が、「隣の奥さんが作ったゆずジュースをもう一度飲みたい」だったため、時田家のゆずを1日1個づつ毎日盗んで試行錯誤しています。

祖母の世話が満足にできないと泣く彼女を見ながら、不器用で男なら泣くなと言い続けてきた父親が、母親が出て行った時に泣きながら表札の名前を消した父親の姿を思い出す。

正直な気持ちを吐き出すレモンの姿と父の涙を思い出しながら、優しい気持ちでレモンを見つめます。昔は大人は泣かないと思っていた。

「泣くな、とは俺は言わない。相手が男であれ女であれ、誰にもそんなことは言わない。」

この言葉から彼のこうあるべきに従わない強い意志を感じました。

【2章】 小柳さんと小柳さん(43-78P)

◆小柳レモン 視点です。

彼女がファミレスのバイト先で店長に頭突きをして、鼻血が流れているシーンから始まります。大量の小柳さんが一気に出てきたので、相関図を書きながら読み進めました。

重要な小柳さんは3人で、レモン・木綿子(母)・三四郎(義父)です。

小柳とはレモンの母の再婚相手の苗字でした。家庭事情が筒抜けで尾ひれが大量につく田舎の嫌なところがふんだんに出てきます。

田舎暮らしの人は思い当たるところが多々あるかと・・・

三四郎はダメなおっさんぽいですが、とてつもなく良い人で母のことを大事にしてくれます。レモンは派手でヤンチャそうな描写が多いですが、煙草を吸って髪を染めて、義父とのあらぬ噂をかけられないようにあえて母の再婚で居場所をなくなって非行化した少女を演じていたことがきっかけのようです。

最初のシーンで店長に頭突きしたのも、三四郎との関係をいろいろ言われたことがきっかけでした。どんな奴だと思ってごめんなさい。レモンの思いやりがあり軸を持った女性としての人となりが、よくわかる章でした。

◆僕の気になった描写2か所

①近所の人たちの噂の取り扱いについて

「みんなしつこくいつまでも覚えている。そして何年経過しても、とっておきのお菓子を味わうように話題にして楽しむ
⇒田舎暮らしで時代の嫌な思い出がたくさん蘇った。いつの話をしてるんですかって!

②レモンがファミレスに敬意を表して略さない棟言う話の中で

真夜中に飛び出した時に受け入れてくれるのはファミレスくらい。都会にはもっとたくさん行き場があるんだろうか。
⇒自分が都会に出たかったのはこの感情の延長泣きがしてならなかった。

【3章】 翼がないから跳ぶまでだ (79~114P)

◆翼の親友 時田鉄也視点(苗字は地域で一番多い名字で翼とは親族ではない)

鉄也には結婚したい女性がいる。玲子さんという離婚歴のある女性。意見がはっきりしていて仕事ができるの玲子さん。離婚理由は旦那が自分より家と義両親の味方についてしまったこと。

鉄也の家族は絵に描いたような田舎の家を大事にする家族。特に父親と兄は田舎のこうあるべきに取りつかれているような人物。祭りの主催になっていた鉄也の家に玲子さんがあいさつに行く。

その時点で嫌な予感しかないが、玲子がお土産持参したチョコレートで酔っぱらう鉄也の母が、料理を運んでいる途中に転んでしまう。何をしているんだと罵声をあびせる鉄也の父に対して、「なんで料理より転んだことを心配をしないんですか?」と言ってしまう。

父を怒った玲子さんを見て、親も大事だが、好きな女性に無理をさせることは間違っていると大事な事に鉄也は気が付く。

親友の鉄也が田舎の呪縛から解放されて、好きな女性と次の一歩を踏み出します。

【4章】 あの子は花を摘まない(115~192P)

◆出て行った翼の母親 広海視点

どこかで出てくると思っていたけど、母親目線の章でした。旦那との離婚理由はやはり義両親と家よりも自分を大事にされなかったこと。彼女は離婚後、友人と起業し小さい雑誌に取り上げあれる程度の成功を手にしています。

田舎のあるべき姿から抜け出しましたが、家族を捨てたことに罪悪感をもっています。あることがきっかけで思い立って久しぶりに翼に会いに行きますが、翼からは「振り返らずに自分の場所で生きて」と言われてしまう。

最初は決別の言葉かと思いショックを受けますが、前を見つめてしっかり生きる会社のパートナーの言葉を受けて、罪悪感を抱えて生きるのではなく今を大事に生きてほしいというメッセージだったと気づきます。

こうあるべきという姿から外れて生きている女性が、励まされて次のステップに向かえるようになる姿が書かれていました。

◆なんで結婚した相手より自分の親を優先してしまうのか・・・

◆家を大事にすることはそんなに重要な事なのか・・・

僕の中の価値観との違いにイライラを感じる章でもありました。

【5章】 妥当じゃない (155~193P)

◆翼の会社の後輩 平野さん視点

自分の年齢と結婚すべきという価値観に悩む女性。結婚したいが、焦っている素振りを周りに気づかれたくはない。

自分らしくとらわれず生きること、こうあるべきという姿に従うこと、考え方は真逆だが圧力は同じものだと思っている。

確かにそうだ・・・

翼のことを好きではないが、結婚相手として自分に妥当だと思っている。控えめな性格ながら翼にアプローチするが、疎い翼には気づいてもらえない。

自分よりも若いレモンの存在がちらほら出てきて悩んでモヤモヤしていると、はっきりさせようと友人に押されて、翼・レモンと一緒に会うことになる。

レモンのひたむきに犬みたいに翼を想う姿勢に触れて、敵わない事と同時に、自分が翼のことを妥当ではなく、しっかりと好きだったことに気づく。

【6章】 おれは外套をぬげない(193-232P)

◆鉄也の玲子さんに罵倒された父親 義孝視点

この人目線が出てくるのかと驚いた。

外套(がいとう)が読めませんでした。一番外側に着る上着のことらしいです。

鉄也の父義孝は、田舎のこうあるべき代表です。悪者のようなキャラですが、彼自身はしっかりと頑張って生きてきた男です。昔から長男はこうあるべきだ、家を継ぎ次の世代に引き渡す責任があると物心ついたときから言い聞かされてきました。

一番の被害者は義孝のような存在かもしれません。刷り込まれてきた大事なものを一生懸命に全うしてきたのに、周りからは疎まれる。

考え方がずれてきていることは何となく気づいてはいるけど、方向修正できないところまで進んでしまった感じ。まるで自分の父親の姿をみているようでした。

被害者という角度から考えるのは初めてでしたが・・・

翼の言葉と妻の言葉で最後は次のステップに進む勇気を持ちます。偏屈なおっさんが変わっていく兆しが見えました。

【7章】 君のために生まれてきたわけじゃない(233~275P)

◆最終章 翼視点に戻ります

父親が入院して看病に疲れていく翼。仕事もこなせなくなってきてメンタル的に病んできます。

会うことを控えて、少しの時間でも会えてすごくうれしそうなレモン。

そのしぐさにかわいいと思う翼ですが、急遽、呼び出された病院で嫌味な質問をして怒らせてしまいます。

先のことを考えすぎてレモンに対して素直になれない翼の本音を聞き出そうと鉄也が計画した投げかけは読みながら笑ってしましました。

「お前俺のことを愛しているんだろ?」と絶叫する鉄也に対して、

「お前なにいってるんだ」と完全に翼とシンクロしていました。

最初の伏線をここで回収しないでくれと焦りましたが、翼はしっかりとレモンへの気持ちを口に出すことができました。

誰のために生まれてきたわけではない。レモンのためでも親のためでもない。今を生きることができるようになった翼は、それでも、この瞬間を大事に生きることの大事さに気づきました。

題名からハッピーエンドじゃないのではと心配していましたが、しっかりハッピーエンドでよかったです。

まとめ感想

ぼくは田舎の閉鎖空間が嫌でしょうがなくて地元を離れました。翼は田舎に残った別ルートの自分の人生として読むことになりました。田舎を捨てて自分の家族と幸せに暮らしている自分は翼の母の広海に似た罪悪感を感じて生きてきました。

忘れようと思っても育った土地はなかなか忘れることができなくて厄介です。

田舎にいたころ嫌だった「家」を重んじて嫁を大事にしない考え方、僕は子供で見ていることしかできませんでしたが、嫌な記憶がたくさん蘇って苦しさもありました。しかし当時、理解してほしかった考え方がたくさんちりばめてあって、代弁してくれて心がスカッとしました。

読む前よりも少し前に進めたような気持になりました。

それでは、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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